秋桜畑

ぶぁっと、それこそ音を立てて秋桜の花々が揺れた。

風…

それと共に自分の体も揺れた。世界そのものが揺れているようだった。

支えてくれる人はいなかった…





「ブルー」
うたた寝をしそうになりながらも、名前を呼ばれた彼女ははっと飛び起きた。
「何……レッドか」
何とは何だよ、と苦笑して、レッドと呼ばれた男児は彼女の隣に腰掛けた。
なんせ最近ろくに話もしていなかったので、お互いに緊張していた。

「明日…出かけようか」

突然の誘い。今まで彼から外出に誘うことなど無かった。
びっくりはしたものの嬉しかった。それこそ飛び上がるほどに。

「…何処に?」

「内緒」

ぎこちない会話。彼女は少々不安を抱きながらも、首を縦に振った。





次の日。彼女は約束の時間の1時間前に起きた。まだ6時。朝がそれほど得意ではない彼女は眠たかったが、久しぶりの彼とのデート、内心ウキウキ反面ドキドキだった。

リビングに行くと、彼女同様早く起きてしまったのか、紅茶をすする彼がいた。
話しかけなかった。お互いに。自分たちでもなぜだかは解らなかったが、つきあい始めた頃、緊張してぎこちなかった2人を思い出した。そのせいだろう。自分に言い聞かせ、彼女は着替えに行った。


「ブルー、準備できたか?」

「ん」

約束の時間。玄関を出ると、彼の持つ尾に火をつけた生き物と彼が待っていた。

ドキドキ…

久々の感情。でもそれは出会った頃の2人の物とは少し変わっていた。

「行くぞ」

空に飛び立つ。肌に風の感覚が心地よかった。
彼の背中を抱きしめてみる。いったい何ヶ月ぶりだったか。懐かしい、そしてどこか埃っぽい彼のにおいがした。

…何か………息が詰まる……

こんな感覚を覚えた。初めてだった。朝のように、ぎこちない空気だった。
彼の仕事が忙しいことも有ってか、ろくに話もしなかったのだ。話すとしても、明日の予定ぐらい。
寂しかった。彼女は寂しかった。話したかった。肩に手を回し、全部を包んで欲しかった。

「どうした?」

「っ……」

気付いて欲しいのに。何処まで鈍感なの?どうして解ろうとしてくれないの?
私たちはもう分かり合えないの?
そう思うと、彼女の頬に冷たい感覚が伝った。

「ブルー?」

本当に解ってくれないの?
彼の瞳は、何もかも包み込むような色をしていた。見ているだけで吸い込まれそうなほどきれいだった。
のに。

「レッド…私ね…あなたが思うほど強くはないの…」

やっと出た言葉だった…悲しみにも似た、寂しさがこみ上げて、彼の顔を直視できなかった。
何処か、彼の瞳にすべて見透かされるおそれもあった。
愛おしさだけでなく、苛立ちまでも。

それから彼は何も言わず、前を見つめていた。


「着いたぞ」


ふわっ


懐かしい香りがした。
おそるおそる顔をあげると、今まで幾度となく見てきた光景があった。

秋桜畑。

出会った当時は、よく彼が連れてきてくれた。

「「此処の景色を見てるとさ、俺たちなんて、すっげぇちっちゃいもんなんだって感じるよな」」

「「え?」」

「「でも、俺の中でのお前の存在は、何よりも大きいから。」」

彼は独り言のように語ってくれた。
大切な言葉も此処で伝えてくれた。
私たちにとって、かけがえのない場所だった。

それだけでなく、少し前に彼と分かり合えない悲しみに襲われたときは、ここで傷を一人癒した。
此処はそんなすべての感情を吸い取ってくれた。

ただ、隣にあなたがいなかった。



でも、今は、違う。彼女はその喜びを噛みしめた。



「レッド、ごめんね」

「んー?」


ざぁっ…

「大好き」

その言葉は、風に連れ去られてしまったかもしれない。
でも、彼はすべてを知っているように、それこそ当たり前に、

彼女のすべてを包んだ。


彼女はもう一度、涙を流した。

今度は、幸せの。


END






後書き

誰か文才を下さい…(泣
ただ私の好きな花の秋桜をキーにしたかったんです。あんまりなってないね。あは。
読み返せば自分でも赤面ですよ。もう。
今度は出会った当時の2人書きたいなー。もちろん秋桜畑での。
狽ヘってことは告白シーンも…!??!?
いやっそれは私の心臓が持たないでしょう!
ごめんなさい。
限界にチャレンジしますが…(誰
それでは。。